大月-三原行(7)

Iryo2008-10-23

長い距離を歩いた.

石を見ると書いて「硯」.近くの砕石場からよい石が出た.切り出した石の目を見る.墨を溜める為の窪みとなる「海」と,磨る為の少し高い「陸」.鑿で時間をかけて丁寧に「海」と「陸」をつなぐように薄く丁寧に削り出せば,鋒鋩強く顕れ墨削る.

今この場所で,硯をつくる作業を見ることはできない.「おじいさんは手先が器用じゃった」という言葉だけが僅かに残った.



からだにしみこむように,意識が隅々までいきわたるように,そして風景は物言わぬまま静かに喪われ往く.丁寧に向き合い,読み取りたいと.無論みなの話を聞いたからといっていいものができるわけではない.けれど,聞きたいと思う.聞いてから,考えたい.そのように思う.

そして草木も蝶ですらも,しかし懸命に生きている.そのことがただ美しい.