大月-三原行(5)

Iryo2008-10-21

牧野が歩いた道.

今の山の頂上を目指して歩いた.沢にたてばブナやシイの巨木の隙間から光がこぼれて,頂上から気温がいっそう低い風が吹き抜けてくる.山頂に出ると,右手に柏島,正面に足摺岬が見えた.スコシ歩けば太平洋まで手が届きそうだ.晴れた日には豊後水道向こうに九州や室戸岬が見えるらしい.牧野もこの風景を眺めただろうか.

幅の広い尾根筋沿いに歩く.サルスベリやモミの木の木立の合間の腐葉土は柔らかい.真新しい落ち葉がさくさくと音を立てる.足元に落ちた花びらに,見上げると白い花が小さな木に咲いていた.山頂近く光がここだけ届き,静かにその土地で名も知れずただ咲く花がある.

頂上に出て,尾根筋を歩くと次から次へと浅黄色をした蝶が高い場所を飛んでいく.アサギマダラは渡りをする蝶として知られる.四国の西端に位置するこの岬の一番高い今の山を越えて,そこから遠く遥か豊後水道向こうの九州へ,大堂海岸あたりでえいやと海に飛び出すだろう.

果たして海に飛び出せば,その多くは途中で力尽きて死ぬかもしれぬ.運よく成功したとして豊後水道越えの後は東シナ海を渡って琉球までいかなけれないけない.そして最後には石垣,竹富あたりまでいけるだろうか.そうまでして何かを儚く求めるようにどこまでも飛ぶ行為は一体全体どういうことなのか.そのことをただ不思議に思った.