大月-三原行(1)

Iryo2008-10-17

牧野富太郎と歩く道」というプロジェクトをはじめた.牧野は熊楠や柳田と並び称される明治の植物学者である.94歳まで生きた.当時は富国強兵とはいうけれど,理科教育もままならぬ時代であって,学校の現場からの身近な野山で学べる教材への要望は強かったようだ.身近な植物は無限の教材であった.

牧野はひたすら野を歩き牧野植物図鑑を作り上げた.ひたすらに野を歩き,橋を越え,山を越え,海に出て,植物をみて,集めて,描き続けた.それ以上でも,以下でもない.ただ野にある草木が好きだった.そんな彼の膨大な観察日誌がある.これにゆっくり目を通す.手書きの細かなスケッチが滲んでいるのが目につく.

草木は土地を語る.その土地の水の流れや,森が生み出す土の具合,黒潮がもたらす風の温度と湿度,それらが生み出す雲と雨,そういうもののすべてが植生には顕れる.溢れる花々の中,ミツバチはとび,草木はその土地で私たちよりも長く生命をつづける.

彼が歩いた道の途中に,彼が見つけ名づけたが,今は絶滅しかけている草木がある.世界中でそこにしか咲かない花がある.狭い植物園や温室に花を閉じ込めるのではなく,そういうものと,かつて牧野が観察旅行の道すがらに感じたであろう,その土地が生み出す生活景の美しさをゆっくりと感じられる,そういう道があってもいいのではないか.そう思った.