港の風景(サンフランシスコ/バンクーバー)

夏休みなので,いつものように(研究しながら)海外をぷらぷら歩いています.西海岸からカナダに入って港町を経由しているせいか,港の風景が気になりました.

横浜や波止浜,大月町などに足を伸ばして,交通などという問題を扱っているとどうしても「楽しく歩こう」とか「車とバスの結節をうまくしよう」とか,陸上交通の仕掛けに意識が向くことが多いような気がします.海辺の町なのだから,港ですごす時間を充実させるプランやコンセプトがもっとあってもいいように思うのですが,港を普段使うという生活体験が希薄なせいなのでしょうか.

サンフランシスコといえばフィッシャーマンズワーフですが,上空からみても特徴のある砂嘴の形をした桟橋が印象的で,しかしよく見ると特徴的な桟橋そもものよりも,港の脇に丘があってそこにのぼっていくスロープが,だんだんと港全体を見下ろす視点場を提供していることが重要だと気付きます.さらにそこから港を見下ろすと,視点場として陸地側に海と向き合う方向に大きなスタンドが設けられています.見るとその場所にふと行きたくなる.海に正対するように巨大なスタンドを設けることで,砂嘴のような桟橋と相対させるように海をゆったり眺める時間を演出しています(今治あたりの港であれば海沿いに(隈さんの戸畑C街区をもうスコシ工夫したようなかんじで)スタンド下がコミュニティFMのスタジオだったりシーカヤックカフェだったりというような構造物とスタンドの一体的なデザインがあうかもしれません).こうして連続的に設けられたさまざまな視点場の他にも,水際線には砂をいれ小さな浜辺をつくって水辺に降りれるようにした上で,部分的に石積み階段をつくったり,海辺に美術館をつくったり(現在リノベーション中),自然に佇める段階的な空間をうまく作っています.霧がかかった午前中を避ければ,眼前のアルカトラス島や,あるいはトライアスロンのスイムの練習を贅沢にも海でしている人々の姿を眺めてゆったりした時間をすごすことができます.

フィッシャーマンズワーフがどう見せるかを意識した港のデザインであるのに対して,バンクーバーは水際をどう動かすかという点を意識したデザインになっています.バンクーバーは乗り継ぎだけで殆ど観る時間もなかったのですが,日暮れが遅いので,すこしだけ水際を歩くことができました.佇む人々の空間,歩行者動線空間,自転車空間,居住空間と4段階にわけて(水際線に並行した)動線のデザインが行われています(車は完全に排除されています).たいへん人通りも多く,横浜の水際空間が歩行者専用に限定されていているわりにアクセスが悪いせいで臨港パークなどが逆にガランとしているのと比べて,バンクーバーでは,自転車やローラーブレード,小さな水上フェリーなど様々な人の動きにまなざしの妙を感じさせます.水際線から垂直方向にはダウンタウンに向けて住宅地を抜けるように設計された肋線,対岸に向けて自転車を乗せることも可能なミニフェリーの動線の存在が,空間全体の回遊性・利用性をさらに高めています.バンクーバーの水際は国際航路にあたるためブリッジの高さが高くとられているのが特徴ですが,そうした橋と水際のマンションの一体的なデザインも見事です.暮らしぶりを高める水際との一体的デザインは単に美しいだけではなく,プライバシーに留意しながらも周辺の人々や観光客を呼び込む工夫がふんだんになされていると感じました.

日本の小さな港は漁港であったり,そこから派生したドックがあったり,生業としての風景が色濃く,安易なデザインは馴染みませんし,単純にこうした海外の事例を押し付けようとは思いませんが,小さな島々への魅力的な定期航路の利活用,シーカヤックなどの自然体験など,様々な動線をツーリズムとしてデザインしていくことを考えるのであれば,港空間の在り方についてもうスコシ考えてみる余地はありそうだと思いました.