目黒 蛍の光
蛍は,弱々しい光をかすかに一定周期で放つ.その光は都会の繁華街やビル街の灯のようにたくさんの人を引き寄せる力はないけれど,頼りなく放っておけば消えてしまいそうだからこそ,寄り添うように引き合うようにぽーっと光る蛍の光を,,畦道の上でみんなで見たいと思った.
なぜ蛍なのかと言われたし,蛍なら他にもっとあるでしょう.とかそういう話をはじめた頃によく聞いた.だけど,そういう話ではない.
いろんなことがあって人間は生きている.
夏の始まりのこの季節に,遅い夕暮れがやってくる.畦道にたつと目黒川から引き込んだ用水路に水は勢いよく流れ,風がふけば田植えの終わった田圃からはどこか懐かしい匂いがしたりして,ようやくやっと,,はじめて川筋の谷間に蛍はどこまでも舞い上がり,光のトンネルを描いた.
そっと手と手をあわせて,みんな一緒に畦道を歩いた.