大月町 Skypeを使ってみた.

大月町の風景づくりの会に参加しました.

といってもSkypeを使って本郷からの参加です.商工会の町田さんがADSLで回線を確保してくださいましたので,なんとか声も聞き取れて,僕のコメントも向こうに届いていたようです.焼酎づくりや,植物図鑑とマップ,農家レストランの啓蒙活動,予算獲得など,いろいろ話すことができてよかったです.

もちろんskypeですから,商工会での打ち合わせの後に開催されたであろう飲み会には参加できないわけですが(笑,普段は,本郷を10時に出ると大月町に着くのが夕方の5時前ですので,往復で考えればずいぶん時間を節約できますし,気軽に相談もできそうな気がします.研究には今までもときどき使っていましたが,現場との対話が必要な風景づくりには画期的なツールといえるかもしれません.

ただ一方で情報過多は感覚を磨耗させるという話もあります.最近,実験的な研究テーマとして「移動するまなざし」という研究を松村くんと一緒に始めたのですが,五感で風景を感じるためにはある種の情報飢餓のようなものが必要ではないかと考えています.

ミクロ経済学には,埋没費用と呼ばれるサンク・コスト (sunk cost) 問題があります(Sutton:1991).旅行では航空運賃などの初期投資が大きいため,一旦旅に出てしまうとおもしろくなくても他に転用ができない場合が多く(この問題は他にもいろんな認知的不協和を生み出しますが),まったく新しい遠い場所への旅行には慎重になるというものです.埋没費用の多寡が新規旅行者の入り込みに対する障壁の高さを決める要因の1つとなっています.

このことは逆にいえば,一旦いった場所であればそこで時間を浪費してまで,つまらないと感じる旅を続けることは合理的な選択とはいえないのですが,旅程を変更して残りの時間を有効に使うことはさらなる追加費用を発生させるためきわめて合理的な判断が必要とされることになるわけです.

旅の情報というのは,(機会損失が過大にならない程度に)サンク・コストを保証するために必要なのであって,それ以上の情報は感覚を磨耗させ,旅の驚きを減退させます.人はなぜ移動するのか?と考えたとき,日常を離れ観光を楽しむ人間の欲求は消費や娯楽に向けられていることもあるだろうけれど,その体験は,日常とは異なる風景や町並みに対してまなざしを投げかけることで生まれていることに気づくはずです.ここではないどこかへ.出かけていくことではじめて周囲に対して関心や好奇心がわきあがります.

http://www.tourism.jp/report/2008/05/jtmreport-080512-3/

移動は全てのはじまりであり,暖かな歓とまなざしに応じた語りかけが移動する風景の中で生まれることを考えるなら,事前の情報を制御することで旅のまなざしとそれに伴う体験と交流の効用を大きく高めることが可能になる気がしています.交流と体験を構造的に整理することが重要かもしれません.


そういえば昨日,岩松の森田さんから伝建の報告書が届きました.出版まではいろいろご苦労があったそうですが,たいへんよい出来です.石見銀山の行動計画を見ていても思いますが,地域性を「究める」のはまちづくりの出発点ではないでしょうか.小西家の岩松川の付け替え工事の話はよみごたえがありますし,原田先生の記念館にしようという構想もなるほどな.と思わせるものがありました.歴史を知ることはどんな大きな町でも小さな町でも同様に,まちづくりの出発点になるのではないかと思いました.